年前のことだが、とある本屋のレジで支払いをしていると、カウンター横の棚に「The 25 Best GHOST TOWNS in Texas Map!」というマップが置いてあるのに気付いた。気になって手に取ったら、すかさず店員が「これ面白いよ。俺も好きなんだ」と言う。つられて思わず買ってしまった。
マップの前書きが期待感を否応なしに煽る。いわく「たいていの人にとって何百ものゴーストタウンを訪れる時間などないでしょう。いやゴーストタウンなどひとつも見たことがないという人がほとんどだろうと思います。でも私たちは数百のゴーストタウンを実際に訪れ、そのなかからベスト25を選び出しました」とある。
私の頭の中では、ゴーストタウン=『西部劇映画に出てくるような町並みが今は住む人もなく荒れ果てている、自分以外には誰もいない、キーキーという音に驚いて振り返れば風に揺れる壊れた酒場の扉、朽ちた木造の家、地平まで真っ直ぐに続く道には砂埃が舞い、サボテンの横を枯れ枝が回り転がっていく、、、、』と既に想像と期待が一人歩きしている。



さて、どこへ行こうか、ベスト25のうち何箇所制覇できるか、などと思いながらマップを開けてみると少々がっかり。当然といえば当然だが、ゴーストタウンというだけあって、ほとんどがオクラホマ州やメキシコとの境界に近い辺鄙なところにある。ヒューストンから行けそうな所は限られている。
それでもこの1年の間に、ダラス、オースティンへの出張の機会も利用して、寄り道程度で行ける3箇所を訪問することができた。ご紹介しよう。


(1)Swartwout
ヒューストンからダラスに車で出張する際に寄り道した。59号線を北に2時間弱走るとLake Livingstonに到達する。そこからFM1988を南西に10マイルほどの位置にある。昔Lake Livingstonから流れるTrinity Riverの川上輸送で栄えた街だそうだ。地図を見ながら探していくと何もそれらしきものがない。そのあたりを行ったり来たりして、半ばあきらめかけたときに偶然発見した。地図のしるしが間違っていたのだ。ゴーストタウンということだが、唯一残っているのは1840年当時の旧家が一軒だけ。Historical Landmarkとしてモニュメントが立っていたが、すでに教会に払い下げられたようで、当日は若者たちがペンキ塗りを行なっていた。周りは普通の田舎の風景でゴーストタウンというイメージはない。

 


(2)Independence
290号をオースティンに向かって1時間ほど走るとBrenhamという町に着く。そこから105号、FM50を30分ほど北上しFM390と交差するところがIndependenceという田舎町だ。1839年にバプテスト教会ができ、Sam Houstonも1853年にここへ引っ越してきて洗礼を受けたという記念碑も立っている。1846年にBaylor Universityが開校した由緒ある歴史的な町であるが1892年に大学が移転すると同時に寂れてしまった。当時のレンガ壁の名残が今も保存されている。
今は大きなRanchばかりの典型的なテキサスの田舎で、時折トラックで馬や牛を運ぶカウボーイが行き交う。ゴーストタウンというイメージはない。

 

Sam Houston Drive:将軍が子供のときにIndependenceという田舎町に移り住み洗礼を受けた場所の横を通る田舎道

 

(3)The Grove
オースティンからの帰りに寄った、というかオースティンからI-35をダラスに向けて90マイルほど北に走るのでかなりの遠回りであった。I-35をTempleというところで降りて36号線で北東に15マイルほど向かう。道路の分岐点にThe Groveへの看板が立っているのでそこを曲がってしばらく行けば到達する。
1870年頃にドイツ系移民が開拓した街で、1940年頃には150家族が住んでいたらしい。昔の鍛冶屋、酒場、雑貨屋、保安官詰所の建物がそのまま保存されている。ここはほんの少しだけゴーストタウンの雰囲気がする。といっても保存されている一角だけがそんな雰囲気で、それ以外は普通の田舎の風景だ。近くには民家もあり、車の往来もある。

 

以上のようにThe 25 Best GHOST TOWNS in Texasのうちの3箇所しか行けなかったが、結論として「ゴーストタウン」を期待して行けば必ず失望する。それぞれHistorical Landmarkではあろうが、それを目的としてまで行くほどのものとは思えなかった。このマップを薦めた本屋の店員は本当にひとつでも行ったのだろうか、と疑念がわく。

それでも私には面白かった。
何故ならば第一に、地図を片手に示された地点を探しながらドライブすることにはオリエンテーションのような、宝探しの旅のような楽しみがある。第二に、テキサスの田舎道をドライブする機会を与えてくれる。車好きで遠くても飛行機を使わず車で行くという人は多くいるが、こんな目的でもない限り、Interstate Highwayを外れてドライブすることはないのではないか。
Interstate Highwayを外れて、時には道路番号が4桁の道路を走ってみるのは面白い。ほとんどすれ違う車もなく、途中で車が故障したらどうしようというスリルもある。農牧業従事者がヒスパニック系なので看板がすべてスペイン語の田舎町もある。
地図を片手に田舎町をうろうろしていると、すれ違う人は皆、不思議そうな顔をして私を見ている。こんな田舎に何故日本人がいるのだろう、というところか。生まれて初めて日本人を見たのかも知れない。中には向こうから声を掛けてきて、道案内を買って出てくれる人や、町の歴史を誇らしげに語り出す人も居た。Southern hospitalityを感じることができる。
反面、年代物のFordのトラックが南北戦争時の南軍旗を今だに誇らしげにつけて走っていたりする。私達の世代なら映画「イージーライダー」を思い出し、ちゃらちゃらしていたらライフルで撃たれるのではないかとのスリルがある。「Totalでガスを入れるな。やつらはFrenchだ」などと大書きして走っているトラックもある。ある種の南部の危うさも感じることができる。
ゴーストタウンを期待してこのマップを買うと絶対後悔する。しかし何より増して、テキサスらしい本当の田舎の風景、のどかで単純な田舎のドライブを楽しむ機会を与えてくれたという意味では、このマップは大いに価値があったと思う。

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