(後編) ラッキードライバー

(山武アメリカ)  

金髪警官事件から半年後の平日の夜中1時半、家へ帰るのに急いでいてウェストハイマーでパトカーに停められた。 免許書と保険証を見せようとしたら大柄の黒人警官に“お酒も飲んでるな、80マイルで飛ばしていたぞ、降りろ。”と言われた。“2、3時間前に食事でビールを2本飲みました。80マイル何て出してないですよ。”と答えたら、“何だ、俺が嘘をついているとでも言うのか!”といきなり迫力満点ですごまれた。 逆らって面倒な事になるといけないし、さっさと帰らして貰いたいので黙っていることにした。 車から降ろされて真っ直ぐに立たされ、目と鼻のさき4、5センチにボールペンを立て、水平に移動させてそれを目だけで追うように言われた。首を動かしたら、それは駄目だ、目だけで追えと言われ、往復7、8回、何とか酔いが軽いことが確認され、酒酔いのお咎めは無しとなった。 スピード違反の方は、制限速度は35マイルなので、45マイルオーバー、日本なら72キロオーバーとんでもない数値だが、追って沙汰があるとのことで帰された。 数日後に通知があった。 5月22日8時に出廷せよ。 あなたの記録と罰金はインターネットで確認できる。との手紙だった。 米国の裁判、陪審制とやらも経験しておこうかと思っていたら、その後すぐ弁護士からのダイレクトメイルが山と来た。 貴殿は交通違反で罪をおかしたと思っているでしょうが、私が何とかするから是非連絡下さい。 多少文面に違いはあるが、みなおしなべてこの様な内容のDMだった。罰金が高いせいかDMは全部で8通も来た。さすが弁護士の競争社会、米国だけのことはあると妙に感心する。どの弁護士が良いか分からないので、会社へ持って行き、スピード狂の若いアメリカ人社員に聞いてみる事にした。

 

中にはへんな弁護士もいるので自分が何回もお世話になっている良い弁護士さんの所へ行けば記記録にならず、保険料も上がらないで済むとある弁護士を紹介された。 弁護士事務所の受付はとても簡単、警察からの通知、免許証を見せ、罰金の90%位をその場で払わされ、法廷呼び出しが1、2ヶ月先になると言われた。数日後に2ヵ月後の出頭日の通知が弁護士事務所より届いた。 その2ヶ月の間に保険の書き換え時期がきたが、裁判所で罪状の確定がされてないので、保険料は昨年と同じで済んだので、弁護士に駆け込んだメリットがすぐ確認された事になる。

 

2ヵ月後、弁護士の指示に従い遅刻しないように召還時間の前、7時半には裁判所の指定法廷へ出かけた。 8時少し前に何人か弁護士が現れ、自分達のお客の名前を呼んで出廷を確認していたが、私の名前を呼んだいかにもベテランの弁護士は、近くまで来て“おまえのケースを俺はやるよ”と言った。どうゆう意味か良く分からなかったが、この言葉の意味は後で分かる事になる。 証人と思われる警官が4、5人、陪審席には男性が1人、そのうち法廷の担当官達が準備を始め、裁判官の入廷を起立して迎える。出廷させられていたのは50人居ただろうか、事務官が名前を呼び始める。呼ばれた人はHereまたはPresenceと答え、続けて自分の弁護士の名前を言う。弁護士の居ない人はNo Attorneyと答える。 検事と何人かの弁護士とが何だか話し合い、こんどは検事が7人づつくらい名前を呼んで、裁判官の前に並ばせ、簡易裁判が始まっていると思われる。各人に罰金がいくら、いつまでに払え等と裁判官が言っているのが聞こえるが、小さい声で聞こえない場合が多い、それらの人達は怪訝な顔をして弁護士と言葉を交わすか、ニッコリ笑ってサンキューと握手をして法廷を出て行く。 時間が経ち8時から出廷してい

 

していた人達は5、6名を残し処分も決まり帰って行き、1時間ごとに新しい人達がまた呼ばれその人達も帰って行く。取り残された私はとても心細い。 ベテラン弁護士はその間何度も出たり入ったり他の法廷でも同じような事をやっていると思われた。11時を過ぎて弁護士に呼び出され廊下で話をする事になった。弁護士が言うには、あんたはまともな日本のビジネスマンで、年齢も私と同じ年代だし、パトカーに停められた時は、仕事が遅くなって真夜中に家に帰る途中だったのだろうから、ウェストハイマーで80マイルも出していた訳がない。警官が周りをスゴイ速度で走っていた若者のムスタング、カマロとあんたを間違えたに違いない。彼ら(検事)はあんたが80マイルで飛ばしていたことを証明しなければならないが、それはとても出来ない。そうだろう、だいじょうぶだ。 法廷に戻るともう残るのは3、4人、証人警官もすでにみな帰っている。昼休み時間も間近。弁護士が被告席に来いと呼ぶ。あんたはこんなように答えれば良いと廊下での話を繰り返す。どうも裁判をやる気だ。最初に弁護士が言った意味がやっと分かった。 そのうちに検事が弁護士を呼んで話始めた。短い会話で弁護士が渋い顔で戻り、ガバメントは真面目にやらない、だからダメなんだと周りに聞こえる声で言い、私をみてウィンクした。 その後列に並び、裁判官は顔を下げたままこちらの顔もみず、不愉快そうに小さい声でDismissed(棄却)と言った。 裁判官の小さい声の意味も分かった。 

こんなわけでスピード違反の罪は免れた。 弁護士の時間作戦もあり、法廷に朝から昼まで5時間も居たわけだが、無罪放免になったのだから、無駄な時間とは思わないし、弁護士先生に感謝している。  みなさんも交通違反などで裁判所への召喚状が来たら、この国では弁護士に相談することをお薦めする。 だからと言って違反をしても大丈夫だとゆうことでは決してない。

 

 

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