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天野 万利 (在ヒューストン日本国総領事館)
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87年2月、1歳4ヶ月の長女と生後3ヶ月の次女を連れ、クウェートから厳冬のパリに赴任した。夫婦ともフランス語は苦手、どうやって何年間かのフランス勤務を退屈せず、少しは有意義に過ごすか、が最大の課題であった。家内は迷わず、「ミシュラン3つ星レストラン制覇」を目標に掲げた。私の方は、しばし迷った末、「フランス・ワインを極める」こととした。アルコールに対する執着は全くない方なので、クウェートでの完全禁酒環境の反動が最大の決め手であったのかもしれない。それに、パリを別とすれば3つ星レストランは良いワイン産地に集中しているから、休暇毎に旅行計画を立てるに当たって家庭内で生じうる不毛な対立の種を未然に回避するという狙いもあった。 「ワインを極める」ために、3つのことを実践した。第一に出来るだけ多くのワインを飲んでみること、第二にワインに関する知識を身につけること、第三にワインを買い付けることである。略して、「呑む」「読む」「買う」である。 ワインの試飲に取りかかる前に、大切な準備運動を実践した。すなわち、自分にはワインの味を覚える記憶力が殆どないことが分かっていたので、ワインの味についての基準点を身につけるべく、ほぼ毎日同じワインを飲み続けた。3ヶ月ほどで、何となく味を「覚えた」ように感じられたので、初めて別のワインを試飲してみた。 確かに、3ヶ月飲み続けたワインとの違いは歴然と感じられ、次々と別のワインを試すことが出来るようになった。 どのワインから手をつけどういう順に攻めるかも大いに重要な点であった。フランスにはそれこそ何百という生産地があって、何万という銘柄のワインが生産されているのだから、一生かけてもその全ては試飲できない。そこで、赤も白も、ボルドーもブルゴーニュもと手当たり次第に手を出すと混乱するので、一応の系統立てをして取りかかることにした。赤からはじめて、産地はボルドー、ブルゴーニュ、ローヌと地図のうえを時計回りに順に進む、次に白に移って、こちらは逆にブルゴーニュ、シャブリ、アルザス、ロワール、ボルドー、ローヌという風に反時計回りに回る。
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この順番はまた、大筋で産地としての重要性に従ったものでもあった。最後に、おまけとして、甘口の白としてソーテルンとロワール、発泡酒としてシャンパンを試していった。 赤白、産地が決まったあと実際にどの銘柄を試飲するかについては、「上から下に」と決めた。つまり、良いとされているものから試すこととした。ボルドー赤の場合は、第1級から5級までに格付けされたおおよそ60銘柄の「グラン・クリュ」のうち、第一ラウンドでは1級から3級までのおおよそ30銘柄程度を集中的に攻めた。また、サンテミリオンとポムロールは、独自の別の格付けを持っているので、ここからも10種類ほど試してみた。ブルゴーニュの場合は、「グラン・クリュ」と第1級とを網羅するほか、名の知られた村のものは試してみるようにした。ボルドーではシャトー名が同じならあとは何年のものかという違いが残るだけだが、ブルゴーニュ・ワインは同じ村、同じ名の畑で全く別の生産者がワインを作っていることが多く、その分試飲すべきワインの数も増えるが、ここでも代表的な生産者を選んで一応試飲は終わったことにした。一つのワインが終わるとすぐに別のものを試したくなり、頭の中にはいつも10銘柄以上のウェイティングリストが入っていた。 とはいっても仕事がソムリエというわけではないので、ワインを飲む機会は一日にランチと夕食の2回しかない。そこで、特に昼食の機会をどれだけ有効に使うかが決め手となった。結局、週に何日かは同好の士を家に誘ってこれはと思う一瓶を開け、皆で批評しあうというのが習慣になった。夜は外で食事をすることも多く、それなりのレストランに行けばこれはと思うワインが注文できた。
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