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藤本 卓也 (Fulbright & Jaworski L.L.P.)
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アメリカの法律事務所では、本当に「アメリカらしい」法律の潮流に出会うことがあります。「アメリカらしい」というのは、アメリカの法的文化、価値観の断片が如実に表れているという意味です。今回は、その中でも、外国人不法行為法(28 U.S.C.§1350)に触れてみたいと思います。
同法の原文は、
これは、(1)被害者である外国人(これはアメリカ人からみて外国人という意味です)が原告となって、(2)被告の、国際法(the law of nations)等に違反する、(3)不法行為を請求原因として、(4)アメリカの裁判所において、訴訟提起することができるというものです。
同法は、制定以来、いわゆる「死に法」で、フィラティガ・ケース(1980年決定)までは、あまり利用されることもありませんでした。同ケースでは、原告(パラグアイ市民)は、パラグアイ国内にて、自分の弟(パラグアイ市民)が、政治的理由によって、警察機関に属する被告(パラグアイ市民)により誘拐されて拷問にあい殺害された旨主張して、アメリカの裁判所において、被告に対し、不法行為に基づく損害賠償請求を提起しました。第一審の連邦地方裁判所は、アメリカの裁判所には、管轄権がないとの理由で、却下しましたが、第二審の連邦控訴裁判所は、(1)拷問の禁止は、国際連合憲章、拷問禁止に関する総会決議等によって、国際社会に共通する法慣習であり、従って、「the law of nations」に含まれる、(2)よって、本件について、当裁判所に管轄権が認められる旨判示しました。 この事案は、極めて残酷なものでした。原告の主張によれば、弟(当時17歳)は、父が反政府活動に従事していることを理由として、拉致拷問を受け殺害され、その後、姉(本件原告)が、その現場に連れてこられて、傷跡生々しい弟の死体と体面させられました。姉は、驚愕してその場から逃げ出したところ、被告は、逃げる姉に向かって、「これがお前のさがしていたものだろう」という旨の非人間的な悪罵を投げかけました。姉は、父(アメリカ在住)を頼って、アメリカに来た際、たまたま、被告が、アメリカに来ていることを知り、アメリカの裁判所に提訴したのです。このような事実関係からみれば、原告が、提訴に至るのも、十分理解できるし、また、アメリカの裁判所が、管轄権を認めたのも心情的にうなずけます。
この判例以降、同法に関する判例が続きます。しかし、訴訟のニュアンスは変わっていきます。ターゲットが、主として莫大な損害金を支払うことができる大企業にかわってきているのです。すなわち、外国人である原告が、アメリカの弁護士を雇って、大企業を被告として、外国で「the law of nations」に違反する不法行為を行ったことを理由に多額の損害賠償を求めて提訴するのです。 |
例えば、 (1) エクアドルの住民が、アメリカの石油会社がエクアドルで石油開発をした際、当地の自然環境を破壊し現地住民の人権を侵害された旨主張して、アメリカの裁判所に提訴した事例(但し、これは、不便宜法廷地、つまり、裁判管轄権があるにも関わらず、証拠収集等当事者の便宜を考慮して、訴えを却下するという法理に基づいて、却下されています)。
(2) ミャンマーの住民が、アメリカの石油会社に対し提訴した事例。アメリカの会社が、パイプラインを建設する際、ミャンマーの軍隊が現場の治安維持にあたったが、その過程で、軍隊が、現地住民に対し、労働を強いたり、略奪、レイプ、殺人等行い、アメリカの会社もこれに法的に関与していると、現地住民が主張して、アメリカの裁判所に提訴した事例(これは、現在も継続中)。
(3) 外国人が、第二次世界大戦中のドイツ(主として大量殺戮を理由とする)や日本(主として強制労働を理由とする)の不法行為を主張して、ドイツや日本の企業を被告として、アメリカの裁判所に提訴した事例(これは、最近、連邦控訴裁判所にて、時効等を理由に、却下されました)。
その他、企業のアメリカ国外での開発行為その他ビジネス活動が、文化的虐殺(「cultural genocide」)や、あるいは、価格協定(「price fixing」)にあたり、それは、「the law of nations」に違反した不法行為であると主張して提訴された事例もあります。
この法律は、つまるところ、「the law of nations」の文言が極めて曖昧で、多様な解釈が可能なため、濫訴の危険性がつきまとうのでしょうが、注意すべきは、一体、誰が、どのような意図から、これらの訴訟を組み立て、現実にアメリカで訴訟に持ち込んだかということです。もちろん、人権救済等国際社会における普遍的価値観を実現するという純粋な意図から、アメリカの弁護士が、提訴した事例もたくさんあるのでしょう。しかし、本法をめぐり継続中の訴訟において、仮に、原告が勝訴した場合、莫大な損害賠償金の支払いが命じられる可能性があるのも厳然とした事実です。アメリカの弁護士の中には、成功報酬で、事件受任することを専門とするものもいます。彼らは、訴訟を能動的な金儲けの手段ととらえ、大企業相手に、莫大な損害賠償金が見込めるのであれば、自ら積極的に訴訟をおこします。この法律も、将来、そのようなネタに使われる可能性はあるのでしょう。
さて、最後に、余談ですが、仮に、皆さんが、弁護士であるとして、考えてみて欲しいことがあります。(1)どのような事実(アメリカ国外で発生した事実、つまり、日本国内の事実も含まれます)を、(2)どのような企業に対して持ち出せば、本法律に基づいて、多額の損害賠償金がとれる可能性が高いでしょうか。これは、頭の体操であると同時に、一種の悪魔の質問になりますね。 |